Prolouge |
それは遥か昔の物語 人間と獣魔と呼ばれるものが共存していた頃。 獣魔の神と崇められる聖龍の予言の通り、双子の龍が生まれてから 人は獣魔のその優れた力を恐れるようになり 人は獣魔狩りと表して獣魔を殺すようになってきた。 双子の龍、ラスとセイラスは獣魔を救おうと人間に戦争を仕掛けた。 獣魔戦争と呼ばれる大規模な戦争である。 第一次戦争は獣魔の圧倒的勝利で幕を閉じたが、人との共存を無理とあきらめた 2頭は、獣魔界と呼ばれる世界を作り出し、人との接触を閉ざした。 そして2頭は互いに子孫を残し、やがて来るだろう戦争の勃発まで自らを封印した。 彼等の子孫は長い時を経てひとつとなり、その絶対的な力は聖獣と呼ばれる獣魔達によって 引き継がれていった。 彼等の子孫は人間界では伝説上の生き物と言われる聖獣に属する龍。 その力は獣魔一であった。 やがて獣魔も自分達の国家を作り、それを2頭の子孫が治めていった。 子孫が受け継ぐは『ラス』という名と胸に刻まれた『ラスの封印』。 ラスの封印を受け継いだ者の使命は人間から獣魔界を守る事。 獣魔暦962年春 聖獣属の住む聖獣大陸では盛大な祭りが開かれていた。 新しい生命の誕生を祝って。 聖獣宮から姿を現すは獣魔王・ゼムラス。 胸には黒く刻まれたラスマークと呼ばれるラスの封印像。 正真正銘・ラスの子孫である。 傍らには赤子を抱えた王妃・フィローラの姿。 第一王子誕生の盛大な式が始まる。 王が滅多に見せない龍の姿に変わり大きく吼える。 高く掲げられた白い毛に包まれた赤子に国民は深く頭を下げた。 獣魔王第一王子・サイラス。 のちに獣魔の歴史を変えてしまう獣魔の誕生だった。 獣魔暦979年夏 第9次戦争が終わった最中、18歳の誕生日を間近に控えたサイラスは、ほぼ壊滅状態 となった鳥獣大陸を親友で肉食獣王であるレオーネ、狼族のアルデバランと共に歩いていた。 「なーんにも残ってないなこりゃ」 白い体毛に豪華な髪を遠慮もなく地面に押し付け寝転がるレオーネにあわせて サイラスも疲れたと一言漏らし、同じように寝転がった。 「俺、ここの復興手伝うのぜってぇイヤだわ。ホント」 「あんたが獣魔王になったら絶対にやらなきゃいけない事じゃないか」 「俺は王になんかなりたくないの。わかったかバラン」 バランと呼ばれた狼族の少年は、2人よりもはるかに小さい体を仕方なしに横たわらせる。 「何言ってんだ。レオーネが王になった時、俺も早く王になって好き勝手したいって言ってたくせに」 「見ろよレオーネをよ。金髪にまじって白い毛見えねぇ?オウサマってのは疲れるんだろ?」 「これは地毛だって言ってるだろうが。お前、本当に俺に喧嘩売ってんのかよ」 ごろごろと大きい体を地面に転がしていたレオーネがサイラスの言葉にムッとして言い返す。 「ケンカなんか売ってねぇよ。またオヤジに怒られるだけだぜ。弱いモンをいじめるなって」 「それがケンカ売ってるって言ってんだよ!!」 勝手にはじまったケンカに、バランは溜息をつく。 「…ライオンってのはどうしてこう、力を出したがるのかね」 ホワイトライオン2頭のケンカをほったらかして、バランは検索がてら燃え尽きた森の中へと足を踏み入れた。 そこでバランは、獣魔にしては恐ろしいものを見てしまった。 そのまま反転し、そそくさと戻ってくる。 「……レオーネ…サイラス」 「なんだぁ?」 綺麗な白い毛皮をうっすらと血で染めたレオーネが機嫌の悪い顔をバランに向ける。 また負けたらしい。 「なんだお前、そんな青冷めた顔して」 「……ひと……」 「はぁ?」 レオーネとサイラスは顔を見合わせた。 「人がいる……」 「は?いるわけねぇじゃん」 「お前、頭大丈夫か?」 レオーネは何を言ってるかわからん、とつぶやいて、バランの来た道をたどってみる。 森に顔を突っ込んで、バランと同じように蒼い顔をして戻ってくる。 「どした?お前もどうかしちゃったのか?」 そしてサイラスも森をのぞいて絶句した。 そこには金色に蒼い目をした少女が震えて座り込んでいたのだった。 獣魔暦982年春 第10次獣魔戦争勃発 すべての獣魔の頂点にたつサイラスは大事な一人息子を人間によって奪われる。 一緒にいた彼の妻と、レオーネの息子と共に。 科学技術の発達により強力な武器を要する人間軍に対し圧倒的不利な状況を、サイラスはラスの封印を 解く事によって勝利した。 だがそれ以来ラスに精神を乗っ取られたサイラスは約18年間の間、非道な王として君臨するのである。 獣魔王の使命『人間から獣魔界を守る事』を完全に忘れ、サイラスは息子達を奪った人間に対し 復讐の念を抱いてしまったのだ。 物語はここから始まる――…… |