風邪をひけば



朝ごはんを作っていると突然電話がなった。
火元を確認してからティーダは受話器を取ると、それはアーロンからだった。
別々の家に住んでいるといっても10分足らずの距離のため、直接用件を伝えに来るのがほとんどのアーロンにしては珍しい事だった。
「それで、どうしたッスか?」
なんだか電話の奥から人の声がたくさん聞こえた。
「ブラスカが風邪をひいた。しかし俺はこれから出張だ。それでだ…」
どうやら外からかけているようだ。
聞き取りづらかったが、なんとか用件を頭に入れる。
「…うん、わかったッス」
急いでいるのかすぐに切られて、ツー…ツー…といっている受話器を置いた。
早速支度を始めようとしたが朝食がまだなのに気がつき、作っているとジェクトが降りてきた。
「ンだ?まだ出来てねぇんか?」
まだ寝足りないのか何なのか大きな欠伸を一つして椅子に座った。
「電話してたからしょうがないだろ?」
ティーダには到底飲めないような、ブラックコーヒーをテーブルに置いた。
いつもの事だからかそれを何も言わずにジェクトは飲み始めたが、ティーダは別に気にしなかった。
この男に礼を言えなんて言う事は無駄だからだ。
「電話?誰からだ?」
作り終えた朝食をテーブルに置いて自分も椅子に座った。
「アーロン」
ピタッ…とコーヒーを飲んでいたジェクトの動きが止まった。
こうなる事は想像できたが…
「それでなんだって?」
多少声音が低くなっているのもまあしょうがない。
一つ息をついてから続けた。
「ブラスカさんが風邪ひいたんだって。それで俺に看病しに来て欲しいって」
「なんだよ。あの堅物がやりゃあいいじゃねーか」
ただの頼み事だったのにホッとしたのか何なのか…
アーロンが看病できればわざわざ俺に頼まないっつの。
「アーロンは出張」
きっぱりそう言えば、諦めたのかまたコーヒーを飲み始めた。
「だからさ、俺この後行ってくるよ。それで夜遅くなるかも」
「ああ?遅くなんのか?」
「だってさ、夜ご飯まで作って身体拭いてあげたりしなきゃだし」
アーロンが帰ってくるのは日付が変わる頃だというからそこまでやらなくてはならなかった。
ブラスカの風邪がひどいのかどうかは聞けなかったが、看病が必要だと言う事は熱はあるだろう。
「…っ!身体………」
「オヤジ?」
カップを片手に手を震えさせているのに少し戸惑う。
看病する事で何故こんなになっているのだろうか?
だが、何よりコーヒーを零さないかという事のほうが不安だった。
「俺様も行く」
「は?オヤジはいいよ。邪魔」
ジェクトの申し出だが、料理を作る事も出来ないのに来てもらっても邪魔だった。
ついはっきり言ってしまったが、このジェクト相手にはそうしないと引き下がってくれない。
「いーや、行く。帰ってきて部屋汚くなっててもいーんか?」
「…それは困る」
自分でそれを言う辺りで何かがおかしいと思うが、まあ敢えて触れない。
やっと帰ってきて、酒瓶がそこらじゅうに転がっていて溜息をつく自分の姿が浮かんだ。
「じゃあ決定だな」
そんなわけで半分無理やりに二人でブラスカの看病に向かう事になった。







「入るぞ」
「お邪魔するッス」
念のために持たされている合鍵で中に入ると、奥のほうからブラスカの声が聞こえた。
ほぼ把握しているこの家だからすぐにブラスカの部屋だとわかった。
少し開いているドアを更に開いて中に入る。
「やあ…あれ?ジェクトも来たのかい?」
意外な人物に少し驚いたようだった。
なんといってもあの家事すらできないジェクトだからだ。
「わりぃかよ」
「せっかくティーダ君を独り占めできるかと思ったんだけどな」
冗談半分でそういうとジェクトはやはり気分を害したようだった。
「てめぇ…「ブラスカさん、熱あるんスか?」
よくある二人のやりとりを遮るようにして、問いかけた。
「ああ、熱があって頭が痛いんだよ」
遮られて怒りの向け所のなくなったジェクトは頭を掻いた。
「それじゃあとりあえず熱測らないと。オヤジ、測っといて。言っとくけど病人相手にムキになんなよ?」
そういうと、ティーダは部屋を出て行った。
「体温計どこだブラスカ?」
部屋を見渡しながら聞くとブラスカはある場所を指さした。
「そこの引き出しに入っていると思うよ」
三つの引き出しがあり迷ったが、朝一回使ったのか最初に開けた一番上に入っていた。
「おら、測れ」
「はいはい」
ブラスカが体温計を入れたところですることもなく椅子に座った。
「君は風邪をあまりひかないだろう?それなのにティーダ君は慣れてるねぇ」
「そういやそうだな。アーロンの奴が教えたんじゃねぇか?」
「そうだろうね」
ピピッという機械音がして、体温計が熱を測り終えたことを知らせた。
立ち上がってブラスカからそれを受け取ってみると、かなり高かった。
「39度4分っておめぇ…よくそんな普通にしてられんな」
ティーダが以前それぐらいの熱を出した時こんなでは全然なかった。
フラフラで立ち上がろうとするものならすぐ倒れていた。
横になっていても身動きせずにいた気がするが…。
「そうかい?旅をしていた時はこれぐらいあっても隠していたからね」
「懐かしいな…で、途中でいつもアーロンにバレて旅行公司で休まされてたな」
「彼は妙に鋭いからね、迂闊に喋れなかったよ」
過去を二人で思い返していると、先ほどティーダの手によって閉められたドアが叩かれた。
開けるとそこには、おぼんで手がふさがっているティーダの姿があった。
「さんきゅーオヤジ。助かったよ」
もしかして足でドア叩いたのか?と聞こうと思ったがやめておいた。
助かったと言われてここに来た意味ができたという達成感が襲ってきたからだ。
「ブラスカさん、食べれる?」
「うーん、少し危ないかな」
「それじゃあ、食べさせるッスね」
「!!ブラスカ!てめ「オヤジうるさい!」
ピシッと叱られてジェクトは空いている椅子に座った。
ティーダがブラスカに作った粥を食べさせている間ジェクトはムスッとしていた。
それにもちろんティーダは気づいていたが敢えて何もしなかった。





その後身体を拭いてやったり、何か一つの事をする度にジェクトの機嫌は悪くなっていった。
ブラスカはその様子を見てただ笑うだけだった。
もう既に夕刻。
ティーダに散々コキ使われたのもあって疲労からもきているのだろう。
「それじゃあもうそろそろ帰るッスね」
「うん、ありがとう。ジェクトもね」
「どーいたしまして」
素っ気無い態度でそういうとさっさと部屋を出て行ってしまった。
「ジェクトはかなり寂しかったようだね」
「オヤジ…馬鹿ッスよほんと」
一日相手にしないだけであんなにもグレてしまう。
しかも病人相手にムキになって。
「早く行ってあげなさい、本当にありがとう」
「そうッスね!それじゃあお大事に!」







「オーヤージ!!何怒ってるんだよ?」
かろうじて追いついたものの、ジェクトは何も言わずに歩いている。
ジェクトの歩幅は大きいため、少し走るようにしなければあっという間に差をつけられてしまう。
「今日はしょうがないだろ?」
病人…しかもあのブラスカとジェクトを構っていたら体力、気力共に持たないだろう。
「…先帰ってろ」
いつもよりややトーンの低い声で言った言葉は聞き取りづらかったが何とか聞く。
それでも、一体この時間にどこに行こうというのか?
「え?」
理由を聞く間もなく、ジェクトは走ってどこかへ行ってしまった。
追いかける事もできたが、少しだけ怖かったためやめて大人しく家へと帰った。


ティーダが家について三十分もしない内にジェクトは帰ってきた。
とんでもない状態で。
「…どうしたんスか?」
驚きを超えて、冷静になって聞いた。
ジェクトは全身ずぶ濡れの姿で、何度か鼻をすすっている。
「海入ってきたんだ」
「この時期に…!?」
水温はかなり低く、今の時期誰も海に行かないのに。
「風邪ひいたら看病頼むぜ」
まさか…
「…馬鹿…すぎ」
「お前がいけねぇんだろ?ま、今日は早く寝るか」
ジェクトはティーダの表情に気がつかずに寝室へと向かおうとした。
「なんでオヤジ…俺に心配かけさせるんだよ!!」
「は?」
「風邪ひいたら…俺…。……もー知らないッス!
!早く風呂入って身体暖めて寝れば?!」
呆然としているジェクトの横をさっさと通り、ティーダは自室のドアを勢い良く閉めた。
知らないと言ったくせに、気を使ってしまったあたりがティーダらしいが。







次の日、ジェクトは当然といえば当然に風邪をひき、ティーダの看病を受けた。
その看病で、ブラスカの時にはしなかった事まで細かくしてくれたとジェクトは気がつくのか…?







<EISP>管理人の真靖サマから頂きましたvv
頂くのが遅くなってしまい申し訳ありません(汗)
それにしても、素敵ですよねvvちょっとした事でやきもちやくジェクト
最高ッッvvでもティーダがどれだけ心配するか、ちょっとわかってない
ところもジェクトらしくて……vvv
真靖サマありがとうございましたvvv

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